岡山大学が導いた光合成膜の進化に関する新たな発見の意義
光合成は、地球上の生命において重要なプロセスであり、植物が太陽光を利用して二酸化炭素を有機物に変換し、その過程で酸素を放出します。この反応は、細胞内の特定の膜構造であるチラコイド膜で行われており、光エネルギーの効率的な変換には欠かせないものです。しかし、チラコイド膜の形成や進化の過程は、長い間解明されていませんでした。
国立大学法人岡山大学の研究チームは、原始的なシアノバクテリア「グレオバクター(Gloeobacter violaceus)」におけるチラコイド膜の形成とその進化的背景に関する新たな知見を明らかにしました。この研究は、2025年8月18日付けで国際科学雑誌「プラントフィジオロジー(Plant Physiology)」に掲載されました。
VIPP1タンパク質の重要性
研究チームは、光合成の過程において欠かせないタンパク質であるVIPP1に焦点を当てました。VIPP1はチラコイド膜の形成に関与しており、その進化的起源についての理解が進んでいなかったのです。今回の発見では、グレオバクターにもVIPP1が存在し、特に末端に追加されたアミノ酸配列「Vc」が非常に重要であることがわかりました。
このVc配列は、極限環境に適応した古細菌の祖先タンパク質にも見られます。これにより、チラコイド膜以外の膜のストレス耐性についても示唆がされ、生命の進化において膜の維持と保護が先行して行われた可能性が考えられます。
植物への応用の期待
グレオバクターのVIPP1は、高等植物であるアラビドプシスでもチラコイド膜を形成する能力があることが確認されました。このチラコイド膜形成能を具現化することで、通常の光合成能力を超える効率的なエネルギー変換が期待されます。
今回の研究結果は、今後の農業技術や植物生産性の向上に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に、VIPP1を利用して植物の光合成膜を強化すれば、環境に対する耐性を向上させ、極限環境下でもより大きな生産性が得られるかもしれません。
結論
岡山大学の研究によって明らかになったチラコイド膜の進化に関する新たな知見は、光合成の効率を高めるための新しい道筋を示しています。これにより、持続可能な農業や環境保護に寄与する新たな技術の開発が期待され、植物の適応能力を引き上げる可能性があります。これは、個々の生命と自然環境との調和を図るための重要な一歩です。