人的資本経営の最前線
一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催した「急成長企業SHIFTの挑戦 ~AIを活用する経営の現場から~」セミナーが注目を集めています。SHIFTは、従業員15,000人を抱える急成長企業として、データとAIを駆使した人的資本経営のモデルを構築しています。このセミナーでは、同社が実践する具体的な手法や経営戦略について深く掘り下げました。
SHIFTが直面する社会課題
まず、SHIFTのVPoHRである上岡隆氏が、日本の生産年齢人口の減少とIT人材不足といった社会課題に言及しました。そして、SHIFTは「DX人材の大量採用」と「エンジニア環境の改善」を掲げ、これらの課題への解決策を模索しています。
上岡氏は、SHIFTの人的資本経営を「街の経営」というメタファーで説明し、以下の3つを基本方針としています。
1.
人口流入(採用)の最大化
2.
人口流出(離職)の最小化
3.
人の価値の最大化(育成・エンゲージメント)
これらの戦略は、企業の持続的成長に直接つながっています。
新しい経営指標「LTV」の導入
SHIFTが独自に定義した新たな経営指標「LTV(Life Time Value)」は、人的資本経営の核心を成しています。この指標は、以下の要素で構成されています。
1.
エンジニアの人数
2.
在籍期間
3.
個々の価値創出
SHIFTは2023年度、69億円の人的資本投資が将来的に1,043億円のLTV増加につながるとの試算を示しました。これにより、経営戦略の具体的な数値化とその効果を明確にし、経営全体の透明性を高めています。
データとAIによる管理の革新
上岡氏は、LTVの最大化を実現するために、データとAIを活用する3つの方法を紹介しました。
1.
ヒトログ
すべての従業員のデータを450項目にわたって集約し、一元管理する独自のタレントマネジメントツール。
2.
評価会議
役員が半期で約1,200時間を投下し、「ヒトログ」のデータを基に全従業員の評価を検討し、適切な配置を行う。
3.
人事施策
従業員の関心事を深く理解し、きめ細やかな人事施策を展開する「壮大なおせっかい」と呼ばれるプロセス。
このようにデータ化とAIの活用は、個人の成長と組織の成長を両立させるための強力な武器となっています。
AIを駆使した業務効率化
SHIFTは、全社的にAIを活用し、経営フローの効率化を進めています。具体的には、履歴書の分析AIで書類選考時間を短縮したり、AIによるオファーレターの自動生成で承諾率を向上させたりしています。また、従業員の心理状態を把握するためのAIエージェント「めん太くん」も開発され、対話を通じて本音を引き出す試みが行われています。
プロティアン・キャリア協会の提言
最後に、プロティアン・キャリア協会の田中研之輔教授が、キャリア開発に必要な現代の考え方について講義しました。従来のキャリア論を「未来の構想」や「行動の蓄積」へとシフトする重要性を示し、個人の主体的なキャリア開発を促進する姿勢を強調しました。
このセミナーは、SHIFTが築く人的資本経営の新たなアプローチと、個人のキャリア形成が交わる貴重な知見を提供しました。今後も、AI時代にわたる新しいキャリア開発の視点が必要とされるでしょう。